10月12、13日に広島県呉市日新製鋼において、産業保健人間工学会第5回大会が開催された。
本大会は広島県医師会、広島産業保健推進センターとの共催、そして日本産業衛生学会中国地方会、日本人間工学会中国四国支部、広島県健康福祉センター、広島商工会議所、呉商工会議所、IWAD女子技術学校からの後援、並びに(財)マツダ財団、日新製鋼(株)呉製鉄所の協賛を得て開催された。
当日の呉はまさに「爽秋」という言葉がピッタリの秋晴れで、約150人の参加者が集まった。
大会長は宇土 博先生(日新製鋼呉製鉄所産業医)で、「職場改善を進めるために-人間工学・産業保健・職場スタッフの役割と協働作業を考える-」をメインテーマとして盛会のうちに行われた。
本学会は、産業保健に関わる人間工学関係者、産業医、産業保健職、産業看護婦、衛生管理者、体育学者等、多分野・多職種の人が参加しており、産業保健活動における実践的な作業管理について議論する学会である。
この学会のコンセプトである「実践的な」という言葉に沿った、現場の話題に基づいた10題の演題と、教育講演、講演、シンポジウム、そしてワークショップが行われ、机上の討論会だけでなく、現場実習も伴う、まさに盛りだくさんの大会となった。
職場見学会は、約20人ずつの小グループに別れて学会会場である日新製鋼呉製鉄所内の圧延ロール分洗浄作業現場にて実際の作業を観察した。 |
数人の作業者が広い工場内で、チョック(鉄板を延ばすためのロールの軸受け)より大きさの異なる6種類のベアリングを抜き出す作業と、バックアップ・シェル焼き付け部(ロールの外殻部)の外周部についた炭化物を砥石で摺って除去する作業、部品の汚れを洗浄する作業が行われていた。これらは以前腰痛などの筋骨格系疾患の認められた職場であったが、全て職場スタッフ自身により人間工学的対策が取り組まれ、職場環境の改善が行なわれた。具体的にいうと、例えばベアリング抜き出し作業では、各機種ベアリング専用の一括抜き出し治具を考案・製作し、ワンタッチ操作・1工程でベアリングを抜き出せるように改善がなされた。またバックアップ・シェル焼き付け部の砥石手入れ作業に対しては、ローラー付置台を考案製作、シェルを90°反転させて横置きに乗せ、回転させながら手入れができるように改善されていた。(下図参照) |
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改善 |
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大きさの異なる6種類のベアリング抜き出し作業は、3工程を要し、前かがみ作業が多く、腰への負担が大きかった。 | 各機種ベアリング専用の一括抜き出し治具を考案。これにより1工程でベアリングを抜き出し、作業性、安全性の向上と腰痛防止に大きな効果を得た。 |
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改善 |
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シェル外周面が炭化状に焼き付くため、全面を砥石で摺って除去する。この作業は座って行うため腰部への負担が非常に大きく、腰痛の大きな原因となった。 | ローラー付き台を考案製作。シェルを90°反転させて横置きに乗せ、回転させながら手入れができるよう改善。これにより、直立して手の位置を常に胸の高さに一定に保って作業ができることで、中腰、しゃがみ姿勢が解消され、腰への負担が軽減された。 |
各グループ毎の討論会の後、シンポジウムが行われた。 シンポジウムは 「産業保健活動における人間工学の役割」というテーマで酒井一博先生 「産業医の立場から」というテーマで広瀬俊雄先生 「『ひとにやさしい職場づくり』推進の戦略および事例」というテーマで千田恭子先生 「熱延分洗作業の概要と腰痛対策について」とテーマで野田勝治さん による発表がそれぞれ行われた。 |
シンポジウムの後、グループ毎の討論会で出されたそれぞれの意見をもとに全体での討論会が催された。 「階段が滑りやすいのではないか?」 「職場全体が広く見渡せるような造りになっており、作業者がどこで何をしているかすぐに分かるよう、安全面に対する配慮を感じた。」 「改善された点以外で依然として前傾姿勢や中腰姿勢をしている作業者がいた。これらに対する改善案は?」 など、多くの意見が出され、それぞれについて活発な討議がなされた。 |
最後に労働科学研究所常務理事の小木和孝先生と第5回大会長の宇土博先生(日新製鋼産業医)、本学会会長の神代雅晴先生(産業医大教授)より総括を含めたコメントを頂いた。 |
その中で、コメンテーターの小木先生の「安全衛生関係者だけでなく、職場の労使による自主的な改善が国内外で大きな広がりを見せている。これら職場の労使の自主的な参加と継続的な実践が、安全・健康で生産的な職場を目標に改善をすすめていくには最も効果的である。そしてそれに経営者、労働者、技術者、安全保健担当者、労働組合など様々な職種の人たちの連係プレーが必要となる。その連係プレーに使われる具体的なツールに力点を置いて、交流や役割分担のあり方を検討すれば、問題点や今後のヒントになる。」というコメントが印象的であった。 このコメントにあったように、ワークショップの場となった日新製鋼の熱延・分洗の職場の腰痛改善も実際にその職場で働くスタッフにより行われ、それがとてもよい結果を出していた。 当たり前の話だが、その職場で働くのは作業者である。その作業者を中心に我々産業保健スタッフはその脇役となってその職場の改善をしていくことの大切さを改めて感じた。 |
また大会両日において広島大学工学部金子教授、辻助教授の研究室から最新のロボット2体の展示があり、同研究室の学生によりその実演も行われた。 一体は「義手型人間支援ロボット」であり、手首に取り付けた空間位置センサーを使って操作者の腕から計測した筋電位信号を制御し、手首を失った人でも腕の筋電パターンを認識して、コップを持つ動作などが可能になるものであった。 もう一体は「多足歩行ロボット」であり、センサーからの情報をもとにコンピュータ制御により歩行し、傾斜のある環境においても抱きつきながら移動することが可能というものであった。 2日間を通して、産業医や産業保健婦をはじめとする産業保健関係者だけでなく、非学会員である日新製鋼の作業者や一般の住民の方々も多く参加されていた。このことから見ても産業保健人間工学という分野への関心が伺えた。 |
12日(木) | 13日(金) | |
9:00- | 受付開始 9:15- | 受付開始 9:00-
一般演題 3, 4 9:30-10:10 |
10:00 | 大会長挨拶 10:00-10:05>
祝辞 10:05-10:10> 一般演題 1, 2 10:10-10:50> コーヒー・ブレイク 10:50-11:00> |
講演 10:10-11:10 『福祉ロボット開発の 現状と人間工学的な課題』 日本福祉大学 山羽和夫 教授 |
11:00 | 教育講演 11:00-12:00> 『感性工学について』 国立呉工業高等専門学校 長町三生 校長 |
コーヒー・ブレイク 11:10-11:20>
一般演題 5, 6 11:20-12:00> |
12:00 | 昼食休憩 12:00-13:00> | 昼食休憩 12:00-13:00> |
13:00 | 総会 13:00-13:30>
ワークショップ・シンポジウム テーマ: 職場の改善を進めるために -人間工学・産業保健・職場スタッフの役割と協働作業を考える- A: ワークショップ: 圧延ロール分洗浄作業の腰痛対策の研修 13:30-15:30> 展示見学 13:30-15:30> *待機中に展示見学を行う。 |
一般演題 7, 8 13:00-13:40>
教育講演 13:40-14:40> 『職場におけるメンタルヘルス 』 中国労災病院 精神科 中川一廣 部長 コーヒー・ブレイク 14:40-14:50>一般演題 9, 10 14:50-15:30> |
14:00 | ||
15:00 |
B. シンポジウム: 15:30-17:00> 座長: 畝 正二 (近畿大学工学部教授) ①人間工学者 酒井 一博 (労働科学研究所所長) ②産業医 広瀬 俊雄 (仙台錦町診療所・ 産業医学センター所長) ③産業保健スタッフ 千田 恭子 (松下産業衛生科学センター) ④職場スタッフ 野田 勝治 (日新製鋼圧延部分 洗作業スタッフ) *コメンテーター 小木 和孝 (労働科学研究所常務理事) 宇土 博 (日新製鋼呉製鉄所産業医) |
閉会 15:30> |
16:00 |
* 一般演題数等によって時間割等プログラムの一部変更有り。 * お名前の敬称は、省略させていただきました。 |
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17:00 | 会場移動 17:00-18:00> | |
18:00 | 懇親会 18:00-20:00> | |
19:00 | ||
20:00 | 解散 20:00-> |
10月12日(木)
長町 三生 (国立呉工業専門学校 校長)テーマ 「感性工学について」
10月13日(金)
山羽 和夫 (日本福祉大学 教授)テーマ 「福祉ロボット開発の現状と人間工学的な課題」
中川 一廣 (中国労災病院 精神科部長)テーマ 「職場におけるメンタルヘルス」
開催日 | 2000年10月12日(木)~13日(金) |
会場 | 日新製鋼(株) 呉製鉄所厚生会館大ホール・若葉クラブ |
主催 | 産業保健人間工学会 |
大会長 | 宇土 博 (日新製鋼(株)呉製鉄所 産業医) |
事務局長 | 舟橋 敦 (マツダ(株) 産業医) |
共催 | 広島県医師会広島県産業保健推進センター |
後援 | 日本産業衛生学会 中国部会日本人間工学会 中国四国支部広島県健康福祉センターIWAD女子技術学校 |
協力 | 日新製鋼(株) 呉製鉄所マツダ(株) |