ワークショップ、シンポジウム

 職場見学会は、約20人ずつの小グループに別れて学会会場である日新製鋼呉製鉄所内の圧延ロール分洗浄作業現場にて実際の作業を観察した。
 数人の作業者が広い工場内で、チョック(鉄板を延ばすためのロールの軸受け)より大きさの異なる6種類のベアリングを抜き出す作業と、バックアップ・シェル焼き付け部(ロールの外殻部)の外周部についた炭化物を砥石で摺って除去する作業、部品の汚れを洗浄する作業が行われていた。

 これらは以前腰痛などの筋骨格系疾患の認められた職場であったが、全て職場スタッフ自身により人間工学的対策が取り組まれ、職場環境の改善が行なわれた。

 具体的にいうと、例えばベアリング抜き出し作業では、各機種ベアリング専用の一括抜き出し治具を考案・製作し、ワンタッチ操作・1工程でベアリングを抜き出せるように改善がなされた。またバックアップ・シェル焼き付け部の砥石手入れ作業に対しては、ローラー付置台を考案製作、シェルを90°反転させて横置きに乗せ、回転させながら手入れができるように改善されていた。(下図参照)

改善

大きさの異なる6種類のベアリング抜き出し作業は、3工程を要し、前かがみ作業が多く、腰への負担が大きかった。 各機種ベアリング専用の一括抜き出し治具を考案。これにより1工程でベアリングを抜き出し、作業性、安全性の向上と腰痛防止に大きな効果を得た。


改善

シェル外周面が炭化状に焼き付くため、全面を砥石で摺って除去する。この作業は座って行うため腰部への負担が非常に大きく、腰痛の大きな原因となった。 ローラー付き台を考案製作。シェルを90°反転させて横置きに乗せ、回転させながら手入れができるよう改善。これにより、直立して手の位置を常に胸の高さに一定に保って作業ができることで、中腰、しゃがみ姿勢が解消され、腰への負担が軽減された。


各グループ毎の討論会の後、シンポジウムが行われた。

シンポジウムは
 「産業保健活動における人間工学の役割」というテーマで酒井一博先生
 「産業医の立場から」というテーマで広瀬俊雄先生
 「『ひとにやさしい職場づくり』推進の戦略および事例」というテーマで千田恭子先生
 「熱延分洗作業の概要と腰痛対策について」とテーマで野田勝治さん
による発表がそれぞれ行われた。

 シンポジウムの後、グループ毎の討論会で出されたそれぞれの意見をもとに全体での討論会が催された。
 「階段が滑りやすいのではないか?」
 「職場全体が広く見渡せるような造りになっており、作業者がどこで何をしているかすぐに分かるよう、安全面に対する配慮を感じた。」
 「改善された点以外で依然として前傾姿勢や中腰姿勢をしている作業者がいた。これらに対する改善案は?」
など、多くの意見が出され、それぞれについて活発な討議がなされた。

 最後に労働科学研究所常務理事の小木和孝先生と第5回大会長の宇土博先生(日新製鋼産業医)、本学会会長の神代雅晴先生(産業医大教授)より総括を含めたコメントを頂いた。
 その中で、コメンテーターの小木先生の「安全衛生関係者だけでなく、職場の労使による自主的な改善が国内外で大きな広がりを見せている。これら職場の労使の自主的な参加と継続的な実践が、安全・健康で生産的な職場を目標に改善をすすめていくには最も効果的である。そしてそれに経営者、労働者、技術者、安全保健担当者、労働組合など様々な職種の人たちの連係プレーが必要となる。その連係プレーに使われる具体的なツールに力点を置いて、交流や役割分担のあり方を検討すれば、問題点や今後のヒントになる。」というコメントが印象的であった。

 このコメントにあったように、ワークショップの場となった日新製鋼の熱延・分洗の職場の腰痛改善も実際にその職場で働くスタッフにより行われ、それがとてもよい結果を出していた。
 当たり前の話だが、その職場で働くのは作業者である。その作業者を中心に我々産業保健スタッフはその脇役となってその職場の改善をしていくことの大切さを改めて感じた。